『プラットフォームとイノベーションをめぐる新たな競争政策の構築』

7月18日に発売予定です。商事法務のページはこちら

 

先ほど、ひと足早く書籍が届き、パラパラと眺めましたが、プラットフォーム規制の現状を概観するのに適した、よくまとまった章がいくつもあります。

 

自己優遇の経済分析

自分たちが執筆したのは最終章:善如・佐藤・橘高「プラットフォームによる自己優遇の経済分析」。

この章を執筆した時期より後に出た論文がいくつかあるので紹介。

 

Self-Preferencing at Amazon AEA Papers and Proceedings。ブラウザ拡張を使って被験者の検索結果などのログが完全に残るようにして、アマゾンでのキーワード検索ごとの検索結果、表示順位を調べたもの。タイトルでググればワーキングペーパー版が見れる。

個人的には、The Markupの記事でやられていた分析を、よりアカデミックにやったもののように感じる。

 

Amazon Entry on Amazon Marketplace ワーキングペーパー。アマゾンから提供されたドイツのmarketplaceのデータを使って、1st party entryが3rd party sellerなどに与えた影響を分析したもの。

データ提供者が利害関係者ど真ん中なので、結論を鵜呑みにするかどうかは個人的には難しいところだけれど、貴重なデータを用いた研究。

フリーミアムの論文

Freemium as Optimal Menu Pricingは、修士論文を改訂したものがフィールド誌に出版されたもの。

 

着想に至った経緯

修士2年生なりたての当時、規制政策かプラットフォームビジネスに関する何かを書きたいとぼんやり考えていて、ネットワーク効果がある時のバージョニングなどを考えていた。

確か『次世代インターネットの経済学』などの新書を読んでいて、「フリーミアム」というビジネスモデルについて否定的な議論がされていたものを読み、天邪鬼なのでフリーミアムについて何か経済学で分析ができないかと考えた。

 

その後、一定の迷走*1を経て、広告収益型のビジネスモデルについてハンドブックの章などを読んで勉強をしながら、フリーミアムを広告収益型プラットフォームによる広告表示の有無を使ったバージョニングとして分析しようというアイディアに至った。

 

執筆プロセス

着手してほどほど経ったころ、国内で似たようなアイディアの論文が公開されて一度絶望。しばらく何を研究するか改めて考えるが、特に新しいアイディアは出ずフリーミアムの研究に戻る。被った論文は競争のモデルだったので、こちらはバージョニングの側面を強調する路線で何か面白い結果が出せないかと頭を捻り、座り仕事のバイト中の合間にコピー用紙を使って計算をしていたら何らかの結果を得て、論文化を進めることにする。その後、文献レビューをすると、プラットフォームのバージョニングについて上位互換のような論文を発見して絶望したりする。自分の研究の方が具体的なトピックにフォーカスしているので、その方向の分析を深めることで差別化を図るなどする。キャッチーなトピックに取り組むとよく被る。

 

結果

IJIOに掲載。その前に投げたジャーナルでレフェリーにネチネチ言われたことにちゃんと対応したのが良かった気がする。

 
追記

はてなブログの有料版を使うと、このブログの広告を非表示にできるらしい。広告表示を用いたフリーミアムで、コンテンツをホストするプラットフォームがコンテンツ提供者からお金を取る事例は他にもあるんだろうか。

 

*1:robust mechanism designやrobust controlを最適規制政策に応用しようとして意味不明な分析を1ヶ月くらいやった。最近はそういう方向性の論文も出てきているのを見るにつけて、自分にはとても無理だったろうと悟った。