レターズとは?
はじめに
僕自身はレターズに近刊含めて5本のパブリケーション*1があり、2023年末時点の日本の31歳以下の経済学者の中では最もレターズの掲載数が多いのではないかと思う。
日本で大学院生をやりながら経済学研究をやる上で、レターズに投稿・掲載するという戦略にはいくつかの利点があるので、この記事ではそれらの点について簡単に記す。
対象読者
日本の経済学修士・博士課程の院生(特にミクロ理論専攻)。欧米ph.Dコースに所属している方々には志が低い話かもしれないので要注意。
レターズのすすめ
日本の経済学徒がレターズに投稿する利点は以下の3つかと思う:
- 手早く出版実績が出せる。
- 短いので、ライティングが多少拙くても論文を書ける。
- より時間のかかる大きな研究をそれほど邪魔しない。
1.手早く出版実績が出せる
日本の博士課程は基本的に3年間しかなく、短い。さらに日本ではジョブマーケット・ペーパーの質が高ければ就職できるというわけでもなく、履歴書の出版実績の本数を数えるような場所も多い。そういうときに、短期間で出版できる媒体が、ショート・ペーパーを掲載するノートジャーナルであり、その経済学における代表ジャーナルがレターズである。レターズの査読は大体1ヶ月前後で、素早い。タイムラインがシビアな院生の助けになる。
2.短いので、ライティングが多少拙くても論文を書ける
レターズの語数制限は2000字なので、短い論文しか投稿できない。つまり、この字数制限だと、端的にモデルと結果を書き、イントロも端的に背景ーやることー結果ーインプリケーションを一つずつ書くことしかできない。
こういうフォーマットの制約は、ライティングが苦手な類の日本の院生にはむしろ好都合で、あまり余計なことを考えずに論文が書ける。それどころか、かっちりとしたフォーマットに従って論文を書くことで、ちゃんとした論文を書く手軽なエクササイズにもなる。
3.より時間のかかる大きな研究をそれほど邪魔しない
ではショート・ペーパーばかり書いていれば良いのかというと決してそういうことはなく、それなりのビッグ・ピクチャーに基づいてフル・ペーパーを書くことも重要だろう。
しかし、そういうフル・ペーパーに取り組んで満足のいくジャーナルに掲載するには時間がかかり、3年間の博士課程で出版実績を上げるというタイムラインとの相性はあまり良くない。
ここでの一つの解決策は、時間をかけてじっくりフル・ペーパーに取り組みながら、たまに思いついたアイディアをショート・ペーパーとしてレターズに投稿する、という方法だ。これがうまくいけば、フル・ペーパーに取り組みながら、出版実績も作れる。
どういう論文がレターズに?
じゃあどうやってレターズに載せる?ショート・ペーパーのアイディアの作り方は?という疑問が湧いてくるかもしれない。
僕の場合は、レターズに載るようなアイディアはむしろ、フル・ペーパーなどに取り組んでいる時に湧いてくることの方が多い。例えば、取り組んでいるフル・ペーパーのプロジェクトの中で、別のモデル化を考えてみたり、別の問題に適用したらどうなるだろうと考えたりしているうちに、何か面白いものが出てきた、しかしその面白いものはあまり大きな話に広がりそうではない、、、というときにショート・ペーパーにしてレターズに投稿した。フル・ペーパーとして雑誌に投稿したが棄却されてしまったときに、コアな結果一つだけに絞ったショート・ペーパーに縮小改訂してレターズに投稿した、、、という経験もある。*2
まとめ
レターズにな、レターズにいつでも投稿できるくらいになりなよ。
*1:
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S016517651830394X?via%3Dihub,
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165176520303013?via%3Dihub,
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165176521003190?via%3Dihub,
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S016517652200129X,
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4673372
*2:逆に、レターズを目標にして始めたプロジェクトは呆気なくリジェクトされてお蔵入りになった。