産業組織理論の投稿先として考えうるジャーナル

目的

産業組織(IO)の理論研究の投稿先の典型的な候補をメモしておく。投稿の順番を考える時に参考になるかもしれない。

対象読者

IO理論の勉強・研究をしている人で、論文を投稿するジャーナルについてあまり考えがまとまっていない人。

注意

  1. Top 5は除く。投稿したければどうぞ。
  2. 総合誌はIO理論がよく載っている気がするところを主観で選定。
  3. 実証が乗りやすいところ(例えばREStat, QE, JoEなど)はよく知らないので無視。
  4. JPE系列もよく知らないので無視。
  5. IOじゃないジャーナルについては、Ham, Wright, and Ye (2021)(以後HWY)に基づき大雑把なランク感だけ分けておく。各ジャーナルについて、HWYのTable 1のInvariant Methodの順位100位以内にあれば添える。ただ、雑誌のランク感は流動的かつ、指標や注目する分野によっても変わるのであくまで目安程度に。この記事の目的はランキング表の提供ではなく、投稿先のリストの提供です。繰り返しますが、雑誌のランク感は流動的かつ、指標や注目する分野によっても変わるのであくまで目安程度にしてください。

 

IOの投稿先候補のジャーナルの一覧:

IO誌

トップ
  1. RAND Journal of Economics (HWY 19): 産業組織のトップ・フィールド誌。
トップの次くらい
  1. Journal of Industrial Economics (HWY 38): RANDに次ぐフィールド誌。
  2. International Journal of Industrial Organization (HWY 52): 欧州産業経済学会と連携している。
  3. Journal of Economics and Management Strategy (HWY 64): 名前の通り経営戦略へのウェイトが少し大きい。
トップの次の次くらい
  1. Review of Industrial Organization: 老舗。
  2. Information Economics and Policy: ICT産業のトピックを広く扱う。
その他
  1. Journal of Regulatory Economics: 規制政策に特化している。
  2. Review of Network Economics (HWY 98): デジタル・ネットワーク産業に特化している。最近論文の出版数が少ない。

総合誌

このカテゴリー分けに異論がある方もいると思いますが、ここは意見が分かれて当然のところだと思うので、強い意見のある方は皆のためにより正確なカテゴリー分けを作ってあげてください。

RANDより高いか同じくらいの評価の雑誌
  1. Journal of European Economic Association (HWY 8)
  2. Economic Journal (HWY 18)
RANDとJIndEc・IJIO・JEMSの間くらいの評価の雑誌

Scandinavian Journal of EconomicsとEconomicaの立ち位置は正直よく分からない。あとJIndEcと比較するかJEMSと比較するかで大分印象が違ってくることもある。

  1. International Economic Review (HWY 23): 総合誌のtierを分ける時にはJEEA、EJと並べられることが多い。
  2. European Economic Review (HWY 34)
  3. Journal of Economic Behavior and Organization (HWY 53)
  4. Scandinavian Journal of Economics (HWY 44)
  5. Economica (HWY 45)
 JIndEc・IJIO・JEMSのどれかと同じくらいか少し下くらいの評価の雑誌
  1. Economic Inquiry (HWY 58)
  2. Canadian Journal of Economics (HWY 61)
  3. Southern Economic Journal (HWY 95)
ノート誌
  1. Economics Letters (HWY 87):これについてはレターズのすすめを読んでほしい。
  2. American Economic Review: Insights: 「ノート」と形容してよいのか分からないけど、ショート・ペーパーのジャーナルということになっている。ただ、少なくともIO理論については大御所の論文しか見たことない。

経営・マーケティング・オペレーション系

Management ScienceとMarketing Scienceは経営・マーケティングのトップ誌だけど、部門がとても多いからか事実上IOみたいな論文もしばしば載る。その特定の部門だけを見ると、IOの人はRANDの方を高く評価している様子がある。

オペレーション系の雑誌は、引用スコアなどがIOひいては経済学の雑誌と比にならないほど高いので、あなたの評価者が中身より数字を見る人なら、あえてこちらに投稿するのもありかもしれない。

RANDと同じくらい
  1. Management Science
  2. Marketing Science
RANDとJIndEc・IJIO・JEMSの間くらい
  1. Quantitative Marketing and Economics: 理論もたまに載ってる。
  2. Production and Operations Management: オペレーションに関わるようなIOモデルの分析がそれなりにある。
JIndEc・IJIO・JEMSの次くらい
  1. European Journal of Operational Research
  2. Transportation Research Part E: Logistics and Transportation Review

法と経済学・公共経済

RANDと同じくらい
  1. Journal of Public Economics (HWY 25): 公共政策的要素が強い論文だとIOでも載る
RANDとJIndEc・IJIO・JEMSの間くらい
  1. Journal of Law and Economics (HWY 40): IOの論文の中で法と関わるものがあると載る印象。関連してJournal of Law, Economics, and Organization (HWY 54)という雑誌もあるけど、こちらはOrganizationという言葉が付いている通り、組織の経済学の色合いが強い。
JIndEc・IJIO・JEMSの次くらい
  1. Journal of Public Economic Theory (HWY 89): たまに普通のIOの論文も載ってる。

経済理論

経済理論系とIOは比較が難しいのでランク感には「?」をつけた。

RANDと同じくらい?
  1. Theoretical Economics (HWY 11): 凄く理論的なら…。
  2. American Economic Journal: Microeconomics (HWY 14): 応用色の強い論文がよく載る。
  3. Journal of Economic Theory (HWY 24): TEと比べると応用色が強いけど、IOからするとやや理論的なジャーナル。
RANDとJIndEc・IJIO・JEMSの間くらい?
  1. Games and Economic Behavior (HWY 33): AEJ Microと似て応用色が強い。
  2. Economic Theory (HWY 36): 応用っぽいけどIO誌からするとややテクニカルかもしれない、そういう論文が載ってる気がする。

その他

上記の雑誌より評価は低いかもしれないけど、投稿が検討されることがある雑誌。「こんなジャーナルに載せても意味ない」という人もいるが、意味はある。ただし、投稿にかかる金銭的・時間的コストに見合う意味があるかは人それぞれ。とはいえ、キャリア初期の日本の若手研究者などは、心無い発言に気を病むことなく、気にせず投稿しよう。後から上を目指すこともできます。

  1. Economic Modelling
  2. Journal of Institutional and Theoretical Economics
  3. Manchester School
  4. Journal of Economics
  5. Economic Record
  6. Research in Economics
  7. B. E. Journal of Theoretical Economics
  8. B. E. Journal of Economic Analysis and Policy
  9. International Review of Economics and Finance
  10. North American Journal of Economics and Finance
  11. Japanese Economic Review
  12. Bulletin of Economic Research
  13. Economics Bulletin
  14. Journal of Industry, Competition, and Trade
  15. Managerial and Decision Economics
  16. Australian Economic Papers: wordファイルしか投稿できないのでtexで書いている人は簡単には投稿できない

 

研究生産性

研究作業を単純化して考える

研究作業を極度に単純化すると、

  1. 面白いアイディアを考える
  2. アイディアを、ディシプリンに沿った形に定式化する
  3. 定式化に従って分析を実行する

という3段階になる気がする。

 

生産性のあげ方?

面白いアイディアを、ディシプリンに従って定式化し、分析を完遂するためには、各ステップに成功しないといけない。

  1. アイディアは、最初から面白いこともあれば、結果が出るまで面白いかわからないこともある。よく考えれば面白くないことがすぐにわかるようなアイディアはすぐに捨てる技能がここでは必要な気がする。*12-3との兼ね合いでは、定式化可能かどうか、定式化したところで分析が実行できるかを判断できることも大事。
  2. アイディアをディシプリンに沿った形に定式化するには、ある程度文献の知識があるとよい。日常的に使っている概念とディシプリンの定式化のマッピングが早い方が、スムーズな定式化に辿り着きやすそう。3との兼ね合いでは、分析可能な定式化についてよく考えることも大事。
  3. 定式化に沿って分析を実行するのは、経済学であれば、モデルを解析的に解く、数値計算を収束させる、計量分析を完遂する、という感じ。練習しやすい。ここの精度と速度を上げれば上げるほど、1-2の試行錯誤の幅が広がる。

 

まとめ

本当に生産的な人はどういう考え方をしているんだろうか。

*1:一方で、一つのアイディアに粘り強く取り組み続けるのも大事な時もあるっぽい。その見極めは難しい。

独占規制の小ネタ

Monopoly regulation in the presence of consumer demand-reductionは、博士課程2年目の時に独占規制の勉強をしたついでに書いたものが、ノート誌に掲載されたもの。

 

着想に至った経緯

規制政策の研究をしたいと思っていたので、Myerson流の独占規制をベースにした独占規制の論文を多数読んで知り合いにプレゼンする勉強会をしていた。輪読の担当者がずっと自分という勉強会。

 

ある程度文献とテクニックに馴染んだところで、指導教員の書いた記事を読んで、規制価格を設定する時に消費者の需要削減投資を入れたら、確かに何か新しいことを考えないといけなそうだと思い、モデル化して解いてみた。

 

執筆プロセス

解いてみたら、ほどほどに面白い結果が出た。勉強会で、どのあたりの視点が理論的興味を刺激するのかなんとなく掴んでいたので、その方向で結果を強調し、せっかくなので同じ勉強会で結果を報告してみる。感触も悪くなかったので、サクッと論文を執筆し、投稿。1ヶ月で改訂要求がかかり、1週間少しで改訂し再投稿。その後1日足らずで採択。勉強会含め、半年弱で勉強から採択まで辿り着いたという点では、日本の大学院生にとってはある意味コストパフォーマンス最高の論文だったかもしれない。

レターズのすすめ

レターズとは?

Economics Lettersのこと。

はじめに

僕自身はレターズに近刊含めて5本のパブリケーション*1があり、2023年末時点の日本の31歳以下の経済学者の中では最もレターズの掲載数が多いのではないかと思う。

日本で大学院生をやりながら経済学研究をやる上で、レターズに投稿・掲載するという戦略にはいくつかの利点があるので、この記事ではそれらの点について簡単に記す。

対象読者

日本の経済学修士・博士課程の院生(特にミクロ理論専攻)。欧米ph.Dコースに所属している方々には志が低い話かもしれないので要注意。

レターズのすすめ

日本の経済学徒がレターズに投稿する利点は以下の3つかと思う:

  1. 手早く出版実績が出せる。
  2. 短いので、ライティングが多少拙くても論文を書ける。
  3. より時間のかかる大きな研究をそれほど邪魔しない。

1.手早く出版実績が出せる

日本の博士課程は基本的に3年間しかなく、短い。さらに日本ではジョブマーケット・ペーパーの質が高ければ就職できるというわけでもなく、履歴書の出版実績の本数を数えるような場所も多い。そういうときに、短期間で出版できる媒体が、ショート・ペーパーを掲載するノートジャーナルであり、その経済学における代表ジャーナルがレターズである。レターズの査読は大体1ヶ月前後で、素早い。タイムラインがシビアな院生の助けになる。

2.短いので、ライティングが多少拙くても論文を書ける

レターズの語数制限は2000字なので、短い論文しか投稿できない。つまり、この字数制限だと、端的にモデルと結果を書き、イントロも端的に背景ーやることー結果ーインプリケーションを一つずつ書くことしかできない。

こういうフォーマットの制約は、ライティングが苦手な類の日本の院生にはむしろ好都合で、あまり余計なことを考えずに論文が書ける。それどころか、かっちりとしたフォーマットに従って論文を書くことで、ちゃんとした論文を書く手軽なエクササイズにもなる。

3.より時間のかかる大きな研究をそれほど邪魔しない

ではショート・ペーパーばかり書いていれば良いのかというと決してそういうことはなく、それなりのビッグ・ピクチャーに基づいてフル・ペーパーを書くことも重要だろう。

しかし、そういうフル・ペーパーに取り組んで満足のいくジャーナルに掲載するには時間がかかり、3年間の博士課程で出版実績を上げるというタイムラインとの相性はあまり良くない。

ここでの一つの解決策は、時間をかけてじっくりフル・ペーパーに取り組みながら、たまに思いついたアイディアをショート・ペーパーとしてレターズに投稿する、という方法だ。これがうまくいけば、フル・ペーパーに取り組みながら、出版実績も作れる。

 

どういう論文がレターズに?

じゃあどうやってレターズに載せる?ショート・ペーパーのアイディアの作り方は?という疑問が湧いてくるかもしれない。

僕の場合は、レターズに載るようなアイディアはむしろ、フル・ペーパーなどに取り組んでいる時に湧いてくることの方が多い。例えば、取り組んでいるフル・ペーパーのプロジェクトの中で、別のモデル化を考えてみたり、別の問題に適用したらどうなるだろうと考えたりしているうちに、何か面白いものが出てきた、しかしその面白いものはあまり大きな話に広がりそうではない、、、というときにショート・ペーパーにしてレターズに投稿した。フル・ペーパーとして雑誌に投稿したが棄却されてしまったときに、コアな結果一つだけに絞ったショート・ペーパーに縮小改訂してレターズに投稿した、、、という経験もある。*2

まとめ

レターズにな、レターズにいつでも投稿できるくらいになりなよ。

 

 

 

応用ミクロ理論分析をする時の初歩的なチェックリスト

このチェックリストは、理論モデルを自分で作って分析するという経験が浅い学部生
または修士課程の大学院生に向けて作成した、モデル分析が正しくできているかを自分
で確認するためのチェックリストです。以下では、理論モデルの分析を「自分でゲーム
を定義して、ある解概念に基づいて解く」作業と想定した上でチェック項目を設定して
います。

 

設定編

  1. プレイヤーの集合を定義できていますか。
  2. 各プレイヤーの行動空間を定義できていますか。
  3. 各プレイヤーの選好を定義できていますか。
  4. 各プレイヤーの情報集合を定義できていますか。
  5. タイミングを定義できていますか。
  6. 解概念を定義できていますか。

 

分析編

  1. 一階条件を利用して最適反応を導出した場合、十分性を検討しましたか。
    •  最適反応は存在しますか。
    • 利得関数は準凹性を満たしていますか。
    •  端点解のチェックをしましたか。
  2. 導出した戦略プロファイルは解概念の定義を満たしていますか。
  3.  解概念の定義を満たすものは 1 つですか。2 つ以上ありますか。

 

以下はファイル版

drive.google.com

理論IOはオワコンか?

背景

理論IOはオワコン

という言葉は自分が院生になりたての時にしばしば聞いた。他にも

この分野ってもうやり尽くしたんじゃないの?

という変化形もある。

本題

研究分野として理論IOはオワコンなのか?

いきなりの結論としてはAEJ:Micro、RAND、JETなどのフィールド誌に依然理論IOの論文は載り続けており、EJ、JEEA、IERなどの総合誌にも載り続けており、オワコンとは言えないと思う。

 

これだけだと味気ないので、五大誌に掲載されている理論IOと呼べる論文の状況を見てみる。2022年以降の既刊論文に絞ってみると、次のような論文が出ている。オワコンならこんなに見つからないと思うので、オワコンではない。

 

RES: 

https://academic.oup.com/restud/article/90/2/538/6609217

https://academic.oup.com/restud/article/89/4/2101/6414224

 

AER:

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20220199

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20201038

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20210616

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20210083

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20201092

 

ECTA:

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.3982/ECTA19775

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/ftr/10.3982/ECTA18937

 

JPE:

https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/720986

https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/720984

https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/717894

 

QJE:

NA

 

感想

「理論IOはオワコンなのか?」という名目で最近の五大誌の論文をチェックした。

2022年-現在までの五大誌の掲載はinformation designの応用が多かった。方法論としてのinformation designが発展したところに、デジタル市場のトピックとしてのターゲット広告、個別価格、推薦システムなどの話が盛り上がったことが大きいように思う。

QJEでは理論IOの論文は行動経済学絡み以外ではあまり見ない。

利潤をパラメータの線形関数として表現する

需要関数を価格pに関する指数関数

 \displaystyle q(p) = \exp(\log a + 1 - p)

とする。

限界費用をcとすると、利潤は

 \displaystyle \pi(p) = (p-c)\exp(\log a + 1 - p)

となる。

利潤最大化の1階条件を解くと

 \displaystyle p^* = c+1

となる。これを代入すると、

 \displaystyle \pi(p^*) = a\exp(-c)

となるわけである。利潤がパラメータaと比例関係にある。

応用

独占的競争などのロジット需要の効用の部分に対数の形でパラメータを入れるとこういう風に利潤を定数倍させるパラメータを導入できる。